今年の鼓童ワン・アース・ツアーは、
新作、『螺旋』を上演いたします。
春秋座公演はツアーとしては栄えある初日。
そこで公演の内容について
また、鼓童の本拠地である新潟県佐渡島での生活について
メンバーのお一人、石塚充さん(プロフィールは文下)に
お話しを伺いました。

第1話 気になる今回のコンサートの内容は?

今回、春秋座で上演する『螺旋』は、
芸術監督・坂東玉三郎さん演出のシリーズとしては5作品目。
春秋座で上演される
『ワン・アース・ツアー』としては3作品目ですね。

今回の内容は、鼓童の過去から現在の楽曲を
行ったり来たりしながら演奏し
螺旋に進んでいく――と伺っておりますが。
石塚
楽曲もそうですが、玉三郎さんは
「とにかく古いところから新しいところへ
向かえばいいというものではなく、
基本と、それを壊して新しいものを作ることが
循環していなくてはいけない」
と、いつもおっしゃているんですね。
この作品では、鼓童が昔から演奏してきた曲と、
一番新しい作品を交互に演奏しながら
螺旋状にどんどん進化していく様子を表現したい。
だから回っているけれど、同じところに戻ってくるのではなく、
上っていく感じですね。
以前のクラシックな曲から最新の曲までが
一気に楽しめる内容ということですか?
石塚
そうですね。
鼓童が長年演奏してきた
「大太鼓」や「モノクローム」という曲もありますが、
ベストアルバムみたいな雰囲気ではなく、
昔から演奏している曲も新しい解釈を加えて、

新しい音楽としても
楽しんでいただけるように考えて作っています。
 
『混沌』までの作品では、
鼓童が今まで使っていなかった
色々な楽器を演奏していますが、
今回はそういったものは?
石塚
今までは「今回はティンパニーを使います」
「今回はドラムを使います」と、
新しい楽器を使うことを
テーマにしていた部分もあったのですが、
僕たちもそういう西洋楽器を使うことに対して
だんだん当たり前になってきて、
曲を作っている時に
「何か音が足りないな…」と感じたら、
チョイスとして西洋の楽器も引っ張り出してくる
という感覚になってきて、
和太鼓も西洋楽器も区別がなくなってきたんですね。

ですから、あそことあそこに西洋の楽器があると、
舞台上を探していただくのも楽しいかなと思います。
音色としては太く、
全体的に気持ちの良いものになっています。
この音色は何の楽器かなというのを意識していただくのも、
面白いと思います。
 
今回も新曲がいくつかあるようですね。
石塚
一つは、“(かなで)”という太鼓 を使って、
(世界初、両面で異なるチューニングができる桶胴太鼓。
鼓童が浅野太鼓楽器店と共同開発)
今までにやらなかったような演奏方法で作った作品。
それから「螺旋」という、
音が螺旋状に回っていくような大曲を作っています。
この2曲が目玉ですね。
 
『螺旋』は、今までの作品と違う、
鼓童にとっても新しい所に行くような作品になりそうですね。
石塚
前々作の『永遠』や前作の『混沌』は
1つのストーリーを作ったもので、
鼓童の作品として新しいスタイルでした。
今作の『螺旋』は、初めに構想を聞いた時、
先ほども言いましたようにベストアルバムじゃないけれど、
懐かしい感じの作品になるのかな、と思ったのですが、
実際、稽古が始まって、その場、その場で
アイディアを足していったら、
結果的に聞いたことのないような音色になってきました。

でも、今までで一番鼓童らしい、
今の鼓童が一番出ているような作品になっています。
なので、すごく気持ちのよいコンサートです。
もちろん『混沌』も好きですが、『混沌』のような緊張感はなくて、
すごく安心して臨める感じがしていいですね。
お聞きしますと、この春、玉三郎さんは
佐渡に50日滞在されて稽古をされたそうですね。
この期間に今回の『螺旋』、さらに現在ツアー中の『混沌』、
次回作の『幽玄』のお稽古もされていたそうで、
毎日、稽古している中で、内容はその日毎に
どんどん変更していくのですか?
石塚
ええ、同じ日に内容が変わることもありましたね(笑)。
春は、『螺旋』のさらに次の
『幽玄』という作品も作り始めていたのですが、
玉三郎さんが「今日は『幽玄』について頭がストップしたから、
次は『螺旋』やろう」とか、
「ちょっとだけ『混沌』の復習しよう」とか
稽古も行ったり来たりしながら(笑)。
では稽古の雰囲気は、
玉三郎さんの頭の中に描かれているような感じで、
こっちをやって、次はあっちをやってと。
石塚
そうでうすね。
この二ケ月間は
ジェットコースターに乗っている感じでしたね(笑)。
玉三郎さんの中では作品を追うごとに、
鼓童にこういうことをさせたいというテーマが
どんどん積み重なっていらっしゃるのですが、
僕らはその全部は分からないので、
その場、その場の瞬発力を使って対応していく感じで、
とてもスリリングですね(笑)。
 
玉三郎さんが鼓童に来られるようになったのは、
石塚さんが鼓童研修所を卒業して
準メンバーになられた頃だとか。
玉三郎さんとの関わりとしては長い方ですよね。
石塚
そうですね。
今は、そうしたメンバーが少なくなってしまったのですが
僕は、玉三郎さんが鼓童に関わられる前の鼓童やその雰囲気、
関わりだした時の雰囲気、そして今の雰囲気も知っています。
ですから、どうしたら鼓童が
もっと芸術的に優れたグループになるのか
ということを一緒に模索した、
その道を一緒に歩かせてもらったような気持ちです。
今もそのような気持ちで作品に参加させていただいています。

お話しをしてくださったのは

石塚充

家族全員が太鼓の演奏家という環境で、幼い頃から太鼓に囲まれて育つ。1999年研修所入所、2002年よりメンバー。新人時代より主要演目に抜擢され、 舞台では主に太鼓を担当。2007年より演出も手がける。穏やかな語り口と観察眼、的確な指示でメンバーからの信頼も厚い。「焔の火」「Stride」な どを作曲。近年、経験者向けのワークショップを展開。2013年、2015年「アマテラス」の音楽監督、スサノオ役を務める。