演じる高校生に出演したかつての高校生を訪ねて

シリーズ 第1回 東尾咲さん編

第9回、10回「演じる高校生」に出場し、その後、第10回公演で上演した作品は全国大会にて見事、優秀賞を獲得。現在は京都造形芸術大学舞台芸術学科に通う東尾さん。今日は高校時代の思い出と彼女の演劇人としての生い立ちをうかがいました。

そもそも演劇を始めたきっかけは?

すっごく、ささいな事なんですが、小学校3年生を終わった時点で転校したんです。転校先の小学校が4年生からクラブに入らなくてはいけなくて、でも誰も知り合いがいなくて、どのクラブに入って良いか分からないので、唯一、ご近所へ挨拶回りに行った先の子と顔見知りになって、その子が演劇部に入ったと聞いたので、「じゃあ私もアンナちゃんの所へ行く!」って。それで入ってしまいました。でもアンナちゃんは小4が終わったらクラブを辞めてしまって、他のクラブに入ってしまったのですが、私はそこから演劇に取りつかれちゃって。小4、5、6と演劇部に所属して、地元の中学には演劇部はなかったので、演劇部がある!という理由で大谷へ行ったんです。大谷は中高一貫校なので、それから高校まで6年間ズルズルと。

小学校の時にたまたま出会った演劇にのめり込んだ理由って、今から思うと、何か思い当たります?

これっていうものは、特にないんですが、一回舞台に立ったら、「あ!またやりたい、続けたい」って、もう中毒的な感じになっちゃって。(笑) 取りつかれた感じです。
最初は、本当にかわいらしい『ヘンゼルとグレーテル』とか『七匹の子ヤギ』とか、本当にかわいらしい感じでした。小学生の時は主役はやっていないと思います。でも一度ライトにあたったら、やめられなくなっちゃいました。

「演じる高校生」の存在は、知っていたのですか?

中学生の時に初めて春秋座の「演じる高校生」で滝川第二高等学校の『君死にたまふことなかれ』(第5回出場)と追手門学院大手門高校の『あげとーふ』(第6回出場)を見て、その時に初めてこの劇場の存在を知ったのですが、それから春秋座の舞台が憧れで。
中学3年生の時には高校演劇コンクールの近畿大会に出たいな、
春秋座に出たいなっていう夢を見るようになりました。春秋座はすごく大好きな舞台なんですよ。たまに舞台芸術学科で照明の授業があったりするんですが、その度にすごくニヤついているみたいで、友達に気持ち悪いって言われているんですよ。「もぅ、東尾気持ち悪い」って。「キモイ寄らんといて」って。

演劇を始めた小学4年生の時から10年間で、もう、やめたいって思ったことはなかったんですか?

ありました。演劇の何もかもが嫌になって、二度と舞台に立ちたくなくなったことがありました。
高校2年生の時、初めて「演じる高校生」で春秋座に立たせていただいて、『村田さんと東尾さん(改)』をやらせていただいたのですが、自分の中ですごく後悔の残る舞台だったんですね。納得のいかないものをやってしまって。声も潰れていましたし、体調が悪いのは言い訳にならないのですが、ひどい演技をしてしまって。
自分でも「これは納得いかん」って、帰りのバスの中で、つっぷして悔し泣きしてしまったんです。でも、その時は「来年、また来たい!」って思ったんですよ。なのに帰ってから塞ぎ込んでしまって。
学校にも行かない時期があったりして、「もう、嫌や…海外行く!」って逃げたくなってしまって。
でも部員やコーチがすごく良くしてくれて。「何がどうなんや?」って色々と声をかけてくれたり、話を聞いてくれたり。で、その次に岡山であった春季全国高等学校演劇研究大会が終わったら、「あ、次っ!」って、いつの間にか次を考えていました。何があって元に戻ったのか分からないですが、一回、春季の舞台を踏んだ後には、元に戻っていた気がします。舞台があって一回区切って、少し休息の期間があったからかもしれませんけれど、そこからはまた、前のようにできるようになりました。

実際に春秋座の舞台に立った感想はどうでしたか?

舞台から見ると2階席もあって、お客さんがたくさんいる。そして舞台が広い! 舞台の床の木の感覚がたまらなくて。あの、なんていうんでしょう。リノリウムだったり、ツルツルした光沢がある素材の舞台より、木の舞台の方が私は好きなんです。特に春秋座のあの木がすごく好きなんですよ。なんていうか。
「演じる高校生」の本番前、幕が閉まっている時に一緒に演じた田中さんと舞台をなでまわしたりとか、転がったりとかして(笑)。
木の方が舞台に立っているぞっていう感じが感覚として何故かするんですよ。

なんなんでしょうね。そうですよね。

そうなんですよねー。

下がコンクリートでリノリウムを敷いた舞台に立っても、舞台に立っているという気があまりしないんですよね。なんなんでしょうね。しかも舞台の木の臭い、舞台独特の匂いとかありますね。

あぁ! 春秋座は特にありますよね。

あれ、匂い嗅ぐと落ち着いちゃうんですよね。

はい。緊張するドキドキと落ち着くのとあります。

あー劇場やわぁ、劇場来てるわぁって。

そうなんですよね。たまらないですね。

そこは、舞台に立った人間が感じる一種、独特のものですよね。

はい。一度、舞台に立ったら、匂いを覚えちゃうというか。だから大学の春秋座の授業中もドキドキしちゃうんです。

中学・高校生の時は既存の台本を? それともオリジナルの台本を?

オリジナルが多かったですね。

自分たちで書いて?

先輩たちが書いてくださったり自分たちで書いたりとかですね。

オリジナルって大変ですよね。

大変ですね。その分、すごく自由な感じがして好きですけれどね。既存は既存で、どう捉えて演出するのか、というのが楽しいですね。

高校生の時、「学校」という枠の中で演劇作品を作っていったことで違和感というか、その影響で何か舞台が変わってきたことってありましたか?

やっぱり保護者の制限っていうか、門限があったり、朝練をやろうにも、この時間より前に登校しちゃいけませんとか、衣装で外をうろつくなとか。特にうちの学校は厳しくて、髪の毛の段差は10センチまで、前髪は眉毛より上とか、スカートは膝が隠れるぐらいとかで。逆にそれを逆手に取ったことはありました。「なんで?」って思うこと、例えば保護者からのクレームとか、「勉強があるからクラブ休みなさい」「これ以上、成績落ちたらクラブやめさせます」とか。そんな出来事を元にして台本を書いたりとか。

演劇にはそういうギリギリのところで、やっていく面白みはありますよね。

学校の活動なので稽古時間が短かったりしたけれど、その分、集中してやらなくてはならないっていうのはありました。でも規制があるから、逆に自由があるって感じはありますよね。

演劇人として、こうして行きたいというのは今、ありますか?

実は高校生の時、それに混乱してしまって。高校を卒業したらどこかの劇団に入りたいというのも考えたんですが、「あ、春秋座がある、そうだ大学に行こう」って思ったんですよ。
京都造形芸術大学に受からなかったら大学は行かなくていいやって。アハハハ。

「演じる高校生」で、春秋座の舞台に立っていなかったら、この大学には…。

来ていなかったですね。来てないと思います。お芝居で演じるのって上手く行かないし、大変だし、大学に入って初めて感情を出すとかいうことを習って大変で。「できないっ、なんで?」っていうこともあるんですけれども、演じることって、大変っていうことと同時に、何ていうんでしょうね、一種の快感がある。そっちの方が今のところ勝っていますね。

高校演劇に出られる方へメッセージを。

「一生懸命、ひたむきに」ですね。高校演劇って、皆がすごく一生懸命っていう感じがするんです。そう! 真っ直ぐなんですよね。その分、視野が狭いというのはあるかもしれないんですけれども、すごく純粋な気がして。今、振り返ると。先日、府大会を見にいってきたんですけれども「あ、高校演劇やな、高校生やなっ」て。思いました。あ、もう戻られへんやなっていう少しの寂しさと、もう一回やりたいなっていうのがありますね。高校生独特、今しかできないことをやってほしいっていう感じです。ほんま高校生の時しかできなかたったなと思いますね。

構成:佐藤和佳子


東尾さんの出場作品

第9回 『村田さんと東尾さん』

大谷高等学校 作・演出:東尾咲
たった二人の演劇部が助っ人としてESS部の公演にかり出される。稽古を積む二人の努力は果たして報われるのか。いや、報われるかどうかではなく、二人はいったい何者なのか、演じるとは何か。独特の間で二人だけの空間を埋め尽くす壮大なメタシアターコント。

第10回 『逝ったり生きたり』

大谷高等学校 作・演出:東尾咲
現役高校生の作者が実際にICUで過ごした経験から創作された、「生」と「死」をテーマにした感動のコント。集中治療室で瀕死の状態にある「にしお」と、屋上から落ちてしまったと語る友達の「たかこ」。生死の境を彷徨う二人が、元気いっぱいに舞台上を暴れまくる。