「舞台芸術の創造・受容のための領域横断的・実践的研究拠点」は、具体的には、本学研究者が中心となって行う「テーマ研究課題」と、学外の研究者に広く公募する「公募研究課題」(平成26年度より実施)に基づいた各研究プロジェクトが、本学の所有する本格的な劇場施設である「京都芸術劇場」(大劇場:春秋座、小劇場:studio21)を使用した「劇場実験」を核として、上記目的を達成し、広く公開していこうとするものです。
「近代日本語における〈声〉と〈語り〉」を論じるには、その前史というか、前提となる文化的記憶と言うべき「日本の伝統芸能における〈語り〉」の構造と作用を見ておかねばなりません。
そこで、まずは「日本の伝統演劇における〈語り〉」について見ておこうと思います。
従って、第一回と第三回を、「伝統演劇」にあてる予定で、まず第一回目は、現代の狂言を代表する人間国宝の和泉流野村万作師をお招きして、狂言における「語り」の代表的な演目を実演していただきます。というのも、狂言は、日本の伝統演劇においては、ほとんど例外的と言ってよいほど、「台詞劇」として洗練されたジャンルですが、その「台詞」は、単に日常的な会話の再現ではなく、時として「呪術的な」異形の姿をとる事があります。
そのような「語りの演技」の典型として、大曲『釣狐』の前段に置かれた「古狐が化けた白蔵主(はくぞうす)」が、狐を獲る甥の猟師に、「九尾の狐」の故事を語って、狐の恐るべきことを説き聞かせる「白蔵主の語り」を、面や装束は着けない形で演じていただきます。
狂言の世界では、「猿に始まり狐に終わる」と言われるように、『釣狐』は、最も重い曲とされていますが、それは、「語り」のもつ「呪力」への畏怖の念が、演者に伝えられているからでしょう。
モデレーター:渡邊守章(演出家・京都造形芸術大学舞台芸術研究センター所長)
この回では、能の『屋島』の「間(あい)」として語られる「奈須与市語 (なすのよいちのかたり)」も取り上げますが、それは「語り」の原点とも言うべき「戦(いくさ)物語」である〈平曲〉の主題である『平家物語』を素材にしているからです。この「語り」は、前回の春秋座能狂言「東西狂言華の競演」の舞台で、万作先生ご自身に語っていただきましたから、ご覧になった方も多いと思いますが、今回は万作先生のお弟子に語っていただき、伝統演劇における伝承の実態にも立ち会っていただきたいと思います。
詩人・小説家で表象文化論研究者でもある芥川賞作家松浦寿輝氏をメイン・ゲストにお招きして、本研究の〈問題形成〉を纏めていただき、明治の変革期を生きた天才的作家樋口一葉を取り上げ、その朗読を後藤加代さんにお願いする予定です。
伝統演劇における『語り』を論じようとすれば、どうしても能と浄瑠璃を論じないわけには行きません。このシリーズでは、第三回として、音曲とドラマを結びつけた能を取り上げ、観世銕之丞師と片山九郎右衛門師に、能における「語り」の代表的な局面を謡っていただく予定です。
※都合により、内容が変更になる場合がございますので予めご了承ください。
※決定次第ホームページに掲載します。