葵上/二重の影
能ジャンクション『葵上』(改訂版)
マルチメディア・パフォーマンス『二重の影』(ポール・クローデル作『繻子の靴』より

作品について

今回の企画は能ジャンクション『葵上』、マルチメディア・パフォーマンス『二重の影』の二本立てです。

葵上


1987年能ジャンクション「葵上」
観世榮夫、野村武司(現萬斎)

能ジャンクション『葵上』は、1987年に故・観世榮夫の提案で、現代音楽家・湯浅譲二が1961年につくった『葵の上』の録音をもとに、観世榮夫と野村武司(現萬斎)によって、渡邊守章がPARCO PART-3で作った舞台作品です。

湯浅氏の『葵の上』は、観世寿夫・榮夫・静夫三兄弟に能『葵上』の「謡い」部分だけを謡ってもらい、それと三人による能の囃子の「掛け声」だけを録音し、それを電子的に変形しつつ様々な音響を加えて、30分の「ミュジーク・コンクレート」に仕上げた作品です。

今回の改訂版では、春秋座の歌舞伎舞台を活かし、かつ、マラルメ・プロジェクト(2010~2012)につづき、高谷史郎の映像がくわわり、PARCO版同様、構成・演出を渡邊守章が担当します。

舞台表象の基本的コンセプトは、PARCO版と同じく、『源氏物語』「葵上」の巻のドラマの決定的なきっかけとなっている「賀茂の祭りの車争い」を、現代的に読み替えて、「自動車レース」とし、レースの途中で瀕死の事故をおこした若者が、死にいたる僅かな時間の隙に、美しい未亡人との恋を幻視する、という設定です。本行どおりの能の『葵上』のシテ、六条御息所が、若者の脳裏に現れて、彼との恋を謡い・舞います。

1987年に野村萬斎が演じた“若者”を茂山童司が、観世榮夫が演じた“六条御息所”を、片山九郎右衛門(29日)と、そして観世三兄弟を叔父・父にもつ観世銕之丞(30日)が日替わりで勤めます。


公開稽古より 観世銕之丞・茂山童司 撮影:清水俊洋

二重の影

「二重の影」は、フランスの詩人、ポール・クローデル(1868-1955)の集大成的戯曲『繻子の靴』の「二日目」(第二部)の最後から二場目の作品です。『繻子の靴』は、16世紀スペインを中心に新旧両大陸に展開される、若い貴婦人と新大陸の征服者との地上では叶わぬ恋を描いた作品で、「二重の影」では、アラビア(モロッコ)の白い城壁に重なって映る男女二人の「影」が語ります。

舞台は、後藤加代と渡邊守章の朗読(録音)、高谷史郎の映像、白井剛・寺田みさこによるダンス、東野珠実による笙で構成されます。そして、禁じられた恋を描いた「二重の影」の《説話的本説》と考えられる、中国の《韓憑説話》が差し込まれ、間の語りとして茂山童司が語ります。翻訳・構成・演出は渡邊守章です。


舞台稽古より