2012年春、グレゴリオ聖歌と声明のコラボレーション公演の話が、声明団体側から持ち上がりました。実現の条件は、グレゴリオ聖歌を古い伝統を守り、最も正しく歌っている聖歌隊でした。そしてこの度決定したのが、イタリア・ミラノのシンボルであるミラノ大聖堂の聖歌隊です。
グレゴリオ聖歌と声明は、西洋と東洋と文化の違いこそあれ、お互い同じ伝統的な宗教音楽です。その原点は祈りの音楽で、祈りとは古代から脈々と受け継がれる人間の営みのひとつ。そこに身を投じることは、現代社会の中で忘れがちな自分の根底を見つめる大切なひとときです。この公演において、日常から離れた空間の中で祈りの音楽を聴くことにより、お客様一人一人が自分自身と向き合う貴重な時間を体験することができます。
同じ宗教音楽でありながら違うベクトルを持つ音の融合と、そこから生まれる化学反応が生み出す崇高な音世界。グレゴリオ聖歌は、あたかも大聖堂の天井高くへ舞い上がり、そしてゆっくり降りてくる歌声。片や声明は、低く裾野が広がるようなじわじわと響き渡る伸びやかな歌声。同じ無伴奏男声ユニゾンでありながら、対照的な2つのハーモニーが見事に調和する時、魂を揺り動かす荘厳な響きが身体の心まで伝わります。この生でしか体験できない貴重なコラボレーションが、不思議な感覚と感動を呼び起こすことでしょう。
グレゴリオ聖歌とは、8世紀の終わりごろに生まれたとされており、ローマ・カトリック教会で用いられる単旋律、無伴奏の宗教音楽です。グレゴリオ聖歌の旋律は、協会旋法と呼ばれる音階で作られていますが、相対的な音高の関係は示されていません。また、リズム表記に関しては様々な解釈をされており、現在では全て等価の長さを持つという説が有力です。
現代において「聲明(しょうみょう)」という呼称は、仏教における伝統的な儀式音楽・声楽・歌唱を指します。仏教儀式において僧侶が仏陀(釈迦、ゴータマ・ブッダ)の説いた経典やそれらを解説した文章を暗記し朗唱する際に旋律を附したものです。西欧音楽で言う音階や旋律はほとんど存在しませんが、僧侶たちが唱和する際には一定の抑揚が与えられ、その抑揚が独特の美しいハーモニーを生み出します。