笠井叡新作『今晩は荒れ模様』

NOTE

日本を代表する6人の女性ダンサー、黒田育世、白河直子、森下真樹、上村なおか、寺田みさこ、山田せつ子が、笠井叡振付けにより、ソロ、デュエット、トリオを通して出会い、反発し、融合し、やがて宇宙的なカタルシスに至るまでのプロセスを表す新作公演。

このテーマの裏には、「人類はいかに、戦争を克服しようとするか?」という問題提起も成されている。これまでの戦争は、異なった原理と原理、或いは宗教観の違い、政治理念の違い等により引き起こされてきた。これらはある意味で、男性主導によって導かれてきた戦争である。今日、戦争は、一人一人の人間の間に生じる「小さな感性の違い」「感覚の違い」を互いが認め合うところに、その克服の出発があると思う。「原理による戦争の克服」ではなく、「感性における戦争の克服」である。その意味で、今作品は個性も世代も異なりつつ、そのダンスにおいても、自立した表現世界を持っているダンサーによって、踊られなければならないと考えた。この六人の女性ダンサーはそれぞれ、明確に自己の主張を持っているダンサーである。それぞれが自己の感性を主張しつつ、そこに互いが結び合うところの、「人間を超えた宇宙的な感性」「宇宙的な感覚」が作品全体を覆う。

舞台全面では、常に「戦い」「ぶつかり」「試行錯誤」「融合」等、テーマ性のある踊りが創られる。前舞台と後舞台との間に、人間と宇宙が出会う空間を装置でなく群舞で表現する。

今、世界、地球は、崩壊に向かっているように思える。それは、政治、社会、経済の中に、もはやそれらを支える理念が消滅し、経済原則だけが優先するようになったからである。すべてが経済原則に絡み取られてしまうなら、文化は早晩、崩壊するであろう。しかし、この地球崩壊、世界崩壊は、食い止められなければならない。それはただ、人間と人間の間における「感性の違い」を乗り越え、融合し、そこに経済原則とは異なった、「霊的精神的なエネルギーを流し込む」という、小さな無限の努力が 積み重ねられなければならない。今新作が、そのような新しい世界開闢の礎石になることを、心から願っている。

笠井 叡