復曲能「菅丞相(かんしょうじょう)」上演

あらすじ

本曲は現在は上演されていない、いわゆる廃曲ですが、平成14年に大阪天満宮の委嘱で、約500年ぶりに復活上演された作品です。讒言(ざんげん)によって太宰府に流され憤死した菅丞相(菅原道真)の亡霊が白髪の童子姿で、かつての師である天台座主法性坊(ほっしょうぼう)の前に現われ、朝廷から召されても参内しないでほしいと懇願します。内裏では菅丞相の怨念のために帝が病臥されていたのです。

法性坊が朝廷からの招請が三度に及んだなら、王地(おうじ)に住む者として参内しないわけにはゆかないというと、菅丞相の亡霊は憤怒の色を見せ、御前の石榴を噛み砕いて妻戸に吐きかけるや、石榴は火炎となって燃え上がり、菅丞相はその火炎にまぎれて姿を消します。後刻、御悩祈祷のため、比叡山から牛車(ぎっしゃ)で参内しようとする法性坊の行く手を、白川あたりで火雷神を従えた菅丞相の亡霊が妨げようと現われますが、法性坊の説得によって、牛車を先導して、ともに内裏に向かいます。

本曲の菅丞相はいったんは強い恨みを抱いて帝を悩ませるのですが、最終的にその恨みは消え、その結果、菅丞相は天満天神となっていまにいたるまで国土の守護神となっている、という展開の能です。

16世紀前半頃以降、上演が途絶えていた曲で、作者や制作時期ともに不明ですが、世阿弥の『申楽談儀』にみえる「天神の能」が本曲の可能性があります。その場合、成立は14世紀後半の南北朝期となります。