京都芸術劇場15周年 さらなる実験と冒険へ

Vol.1 京都芸術劇場15周年特別企画 麿赤兒さんインタビュー

春秋座は歌舞伎劇場ではあますが、麿さんには、これまでに大駱駝艦・天賦典式として2003年『魂戯れ』、今年(2016年)『ムシノホシ』と舞踏を上演していただいております。
京都は文化庁が来ることも含め、文化の東京一極集中を解消すべく、京都芸術センターやロームシアター、そして今年6回目を迎えるKYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭などを開催し舞台芸術を発信していくことで、それぞれの劇場や組織が繋がることで、より発展していこうとしているところで、京都芸術劇場と劇場を運営する京都造形芸術大学 舞台芸術研究センターも深く関与しています。

──

笠井さんにもお聞きしたのですが、春秋座の舞台に立ってみて、
また、京都で上演することについて、どのような印象がございますか?

麿

大学で歌舞伎の劇場を持っているということ。
アメリカなんかは大学が劇場を持っていて、
市民が出かけて行くけれど、その先駆けだよね。
そういう意味で、もっと誇りをもって市民に開いて、
全国区として力を付けていってほしいですね。
京都の人は気位(きぐらい)が高いのが
地方性ということになっているけれど、
よそ者を受け入れるのはね、すごいと思うんだよね。
排除もすごいけれど(笑)。昔からそういう場所ですからね。
新撰組とかそうでしょ。
そういう戦場のような、アートの戦いのように
京都が賑やかになるといいですね。

──

ありがとうございます。 ますます京都芸術劇場から舞台芸術を発信してまいりたいと思います。

さて、10月1日(土)、2日(日)に上演される
『荒野のリア』について、お話しを伺いたいと思います。
『荒野のリア』は2014年3月が初演で、その再演ですね。
演出の川村毅さんとは2014年が初めてですか?

麿

一緒にやるのは初めてです。
確か、第三エロチカの「四谷怪談・解剖室」(1995年川村毅作・演出)に大駱駝艦の舞踏手が出演させてもらったことがあったな。
俺を雇ってくれないから、
川村氏と京都で一杯飲んだ時に「俺のこと嫌いなの?」って、
かなり挑発したんだけれど、「尊敬してます」っていうんだよ。
彼は演劇の人だと思っていたんけど、踊りも観てて視野は相当広いね。

──

再演ならではの難しさがあると思いますが、
麿さんは今回どのような『荒野のリア』を?

麿

『リア』はジャンルとしては演劇だけれど、
舞踏とかなりオーバーラップしていますからね、僕の中では。
舞踏なのか演劇なのか、
そういう風な何か違ったリア像を描きたいと思っているんです。

──

川村さんの演出と麿さんの思っておられるリア像が
重なったということでしょうか。

麿

それは川村さんが僕を雇うといったのだから、
当然、リアというひねくれたジジイの役を
“いけるんじゃない”と思ったんじゃないのかな。
松岡さん訳のセリフも言いやすいですよね。

──

本作は、前半の父親と娘たちの葛藤がなくて、
いきなり第三幕から始まるんですね。
そして、なんと男性だけでリアをやると。

麿

そう。リアが荒野にさまよい出るところから始まって、
娘たちのあれこれがフラッシュバックするという演出ですね。

──

麿さんは舞踏家でありながら役者としてのお仕事もされ、
幅広くご活躍されていますが、シェイクスピア劇は初めてですか。

麿

遊びでやったことはあるので、初めてではないんですが。
なんか恥ずかしくてね、洋物は好きではなかったんです。
僕らが観ていたのは古い洋物だからね、
宝塚風、新劇風になってしまうから。
最近は、そうではなくてシェイクスピアを
ズタズタにしてしまおうという気概のある日本人も出てきたね。
ありがたいシェイクスピアではなく違うベクトルの方法論で上演する、
そういう作品が出てきてますね。
固定されたシェイクスピア論みたいなのは面白くないし。

結局、人が悩んでいるのは、みんな同じだっていうことが
分かってきたってことじゃないかなと思うんですよね。
日本の城主が葛藤して悩むのも
イギリスの国王が悩むのも、そんなに違わないんじゃないかな。
その切り口の鋭さは日本人の方が勝っているんじゃないかなあ。
どういう面で観せようかな、という視点ですね。

──

川村さんの演出で「リア王をこうとらえたか!」
というような発見はありますか?

麿

そうだねえ。突然、狂ったりするシーンがあって、
それは僕に対するサービスかよくわからないけど(笑)。
急に女になって踊れ、とかね。それは面白いなと思いましたね。
女が憑依するというかね。
女になるということで狂気の幅が広がってるんじゃないかな。

男としての、ジジイとしての、パパとしての、
親父としての「悩み」という壁を取っちゃって、
女になっちゃえってね。
僕の中で非常にふり幅が自由になれました。
多重人格になることで狂気の幅というか、
内面がより分かるというか。
もう一人の人間がでてきちゃうからね。
リアそのものが悩んでいるのではなくて、
もう一人の女性、あるいは女性性が中から出てきて、
「くやしー!」と嫉妬したりとかね。
そういう意味では子細に富んだ演出ですね。

──

シェイクスピアは、ある種、完成されている作品ですが、
その中に今の時代の要素を入れようと?

麿

つまり、そんなに変わっていないんだよな。
情念的な意味では古代から人はそんなに変わらないんだよな。
ギリシャ時代も同じで、
母親殺しとか、父親殺しとか今も昔もあるわけ。
やっていることは同じ。
老人問題にしても、介護問題にしてもね。
そういう課題が、この中に自然と入ってきているんですね。

まあ僕も実生活でどうしようかなと思いますよね。
そりゃリアと同じように娘が3人もいれば、
なんとかなるかもしれないけれど、
でも、うちは財産もないしな…とかね(笑)。
ただ情念的には同じ問題ですよ。
介護していて、お父さんがめんどうくさいとか、
そういう日常で思っていることが
舞台を観ていると自然にひっかかってくるから。

だから娘の立場の人が見に来た時、
この話が単なる老人介護の問題ではなく、
実生活をフィクション化できるという見方になってくれたらいいな、
そうしたら豊かになれるんじゃないかな。

家に帰って、介護している親父に
「いっしょにシェイクスピアごっこ、リアごっこしようか!」
とか言ったりね。
嫌だ嫌だ、と言うより、日常をフィクションにして
「はい、お父さんオムツをかえましょう(セリフ調で)」
とか言いながらやったりすると、面白いと思いますよ。

──

この作品について川村さんは、 「世間から排除された男たちのドラマ」で、
家族から捨てられたり、リストラされた男たちが
荒野に集まってさまよっている感じだとおっしゃってましたが。

麿

なるほど。

──

でも、実はみんなはリアのことが大好きで、
守ってあげたいと思っている。
同じように、麿さん自身もみんなからすごく愛されてますよね。
リアって、だいたい嫌なお爺さんで演じる人が多いですよね(笑)。

麿

「早く死ねジジイ~」みたいな感じで演じてるんだけれどな(笑)。
そのぐらい憎たらしいジジイさえも
可愛らしく見えてくるようなところもあるんだろうね。
でも、年寄りってそういうもんだろって思って。
だから弱いリアもあってもいいんじゃないかなと思って。
強いリアではなくて、「僕、だめなの…」とかってね。

ただ、その塩梅は演出に任せてね。僕は調教されています(笑)。
でも観た後、家に帰った時、
憎たらしいと思っていた親父が
可愛く見えてきたらいいだろうなあと思って。

──

2年半ぶりの再演で、これから稽古だと思いますが、
再演に向けて改めてどういう作品にしたいですか。

麿

初めて出会ったときの新鮮さが、慣れてきちゃってね。
だから、もう一度、どうやって息を吹き込むのか。
それがかえって難しいところではあります。
セリフと初めて対峙した時、
「言葉の使い方が上手いなぁこいつ(松岡さん)!」
というのがあったわけです。セリフ回しとか。
これだったら、ちゃんと分かるように言おうとかね。
でも、どんどんそういう言葉の言い回しの上手さに対する感動が
あたりまえになってくると、ダレてくるなあと思って。

──

シェイクスピア劇はセリフの量がすごく多く、
話しているだけでも息が上がるそうですが、
舞踏家としてどのようなスタンスで挑んでおられますか?

麿

口でしゃべっていると思うとダメだね。
むしろ、おならこいてる、みたいな感じ(笑)。
そういう感じで、んんん~とやっていると、やっぱり下半身だよね。
常に便秘をこらえているより、出しちゃえーっていう、
内臓感覚というと人に通じないと思いますが。

ちょっとぐらいセリフがつっかえても、
ジジイは何やってもいいんだっていう、
ある種の自由さを持っていますね。
大体、立派なセリフをしゃべれるジジイはいないだろうって(笑)。
それに昨日は読めた漢字が今日は読めなくなるってこともあるだろうし、
そいういう葛藤とかもリアルだよね。
意地汚く、わざと、ぐじゅぐじゅぐじゅ~って
聞きとり難いように言っといて、
耳を澄ましたとたん、ちゃんと言うとかね。
こういうのがズルイ!となるんだろうね。
とにかくジジイなんだ(笑)。
そういう芸の上手さや良し悪しで測れないものがやりてえなぁって
思ったりしてます。

──

これからの稽古で、さらに、どんな“ジジイ”になっていくのか、
どれだけ自由になっていくのか楽しみですね。
ありがとうございました。

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