演じる高校生 対談

第1回

―梅野昌紀くんは兵庫県立西宮今津高校3年生の時、
眞栄田貴豊くんと前川鈴香さんは大阪市立工芸高等学校2年生の時に
『演じる高校生』公演に出演されたんですよね。
3人とも演劇経験は高校生の時からですか?
梅野
僕は日本舞踊を3歳の時からやっていたんで、
「演劇」というと歌舞伎とか狂言とかみたいな感じやったんです。
だから高校演劇って未知数の世界で、高校に入ってびっくりしました。

元々、戯曲を読むのは好きだったんです。
中学生の時に三島由紀夫の『サド侯爵夫人』を読んで、
ずっと上演してみたいなって思っていて。
それは昨年、大学で自分が主催している「雛唐草」っていう団体で
上演できたんですけれど。

前川さんとかの学校の演劇部は強豪校ですけれど、
うちの高校の演劇部って存亡の危機みたいな部で。
僕が入った時は、同学年の子が7人ぐらい。先輩たちも7人ぐらいだったかな。
前川
結構、残っている方やなぁ。
梅野
先輩たちは最終的に4人ぐらいになってしまったかな。
部室に行っても、稽古しなくて絵だけ描いているような部で。
そこで3年間演出をしていました。1年生の時は台本を書いたりとか。
前川
今でも梅野くんはそうだもんね。ブレない男!
私は3コ上の先輩が演劇コンクールの全国大会に出てはって、
そこに憧れて入った世代。眞栄田くんは?
眞栄田
僕は演劇部には途中から入ったんですけれど
前川
それがどうして、こんなことに?(写真を指さしながら)ここにいるんですよ。
眞栄田
前川さんはどこにいるの?
前川
私はこの辺で舞台監督を。
この時は制作というポジションはそんなになかったんで、
いろいろやっていました。
私の行っていた高校は、デザインや物を作る学校だったんですけれども、
演劇もやってみたいと思って入ったら演劇の方に行ったと(笑)。
―どの辺で演劇にハマったんですか?
前川
なんでなんでしょうねえ。
「芝居と乞食は3日やったらやめられない」っていうことでしょうかねえ。
最初は「大会とか行けたらいいじゃん!」って思って入ったんですけれど、
思ったより時間も心も体も全部とられるジャンルの部活でした。
楽しいかなって思ったら違いました(笑)
眞栄田
僕は本当は実家のケーキ屋を継ごうと思っていまして、それでとりあえず
美的センスを磨こうと思って、大阪市立工芸高校に入ったんです。
それでスポーツ系のクラブもあまりなくて、
とりあえずクラブに所属したいなって思っていたんで、
半分冗談で「俺、演劇部入ったでー!」って言って
クラスのみんなを笑わせようと思って入ったんですけれど、
思いの他、まじめで。
前川
まじめか?
眞栄田
いやー俺、まじめやったやろー。あんなに筋トレするとは思わんかった。
多分、学校内のどの部活より体を動かしてたと思います。
片手腕立て、腹筋、背筋から入って冬はランニング。
前川
早朝に部室に集まってランニングです。学校の周りを走る。
梅野
僕たちは延々と擦り足の稽古です。
〈一同笑〉
眞栄田
歩くって!! 演劇の根本は歩くってこと?
梅野
ずっと時代ものが多かったんですよ。
前川
梅野くんがやるのが?
梅野
そう。僕が書くのが。
擦り足は最初、同学年の子とかがハマりだして。
他学年の子らは嫌がるんですけれど、2年目ぐらいになると、
どっぷりハマっちゃって。一緒に擦り足するんです。
眞栄田
すごい部活だな。みんな感化されていく。
梅野
でも、最初は僕が厳しくて怖がられていましたけれどね。
今でも後輩のコンクールとかはよく見にいくんですけれど、
いまだに着物を着て芝居していたりするんですよ。
前川
影響が端々に。
梅野
そう。で、なんかそのあの時は大変だったけれど、今考えると楽しかったなって。
前川
私も今年の大会、見にいきましたよ。
梅野
僕もいきました。
前川
搬出まで手伝ってきましたよ。
梅野
僕は役者の髪結ってきた。おすべらかしに。
眞栄田
「髪結ってきた」って同年代からそんな言葉を聞くとは思わんかった(笑)。
梅野
ほら、こんな感じ(携帯写真をみせて)。
前川
うわー。
梅野
なかなかヘンな感じで、すっかりお馴染の高校に。
当時は大分やりたいことをやりたい放題させてもらいました。
眞栄田
あんた、今でもやりたい放題やんか(笑)
梅野
今でもね。やりたい放題(笑)でも高校の演劇部の時ほどは…。
演劇部の時は美術も小道具も衣装も全部やったんですよ。
これ、上は和紙で出来ていて、下はウエディングドレスなんです。
貸衣装処分市っていうのが定期的に百貨店であってそこで調達するんです。
おばさん達と衣装の取り合いをするんですよ。
僕がちょうど紙人形を作るのが趣味で、
眞栄田
渋い
梅野
それをでっかくしたみたいな感じで作ったんですけれど。
これ、障子紙を使ったんです。揉んで使ったら和紙って結構、
ぐるぐるぐるぐる動き回ったりとか、走り回ったりしても丈夫なんです。
部室のその辺に転がっていた安っすいボロボロの布を引っ張り出してきて、
それに洗濯糊をバーっと塗って、その上に和紙を置いて裏打ちするんですよ。
部室中に広げて、みんなで、なんか洗い張りみたいな。
眞栄田
すごいなあ~
前川
それでご飯食べていけそうやな。
高一の時に私らも紙の衣装やっているんですけれども、
スーパー狂言の梅原猛先生の『王様と恐竜』をやったんです。
あの衣装を実家が紙の加工屋さんの部員がいて、
肩衣とかね、カラスの羽を作ったりとか。
梅野
前川さんたちの方が演劇として本格的ですよね。
前川
スタイルがね、全然違いますよ。
西宮今津は梅野部やけど、こっちはコーチがいて、
その元にみんなでやるって感じ。
眞栄田
絶対服従でしたね。
前川
だから、誰か一人が飛びぬけてどうこうしたりっていう部ではなく、みんながね。
梅野
でも束ね役はいるでしょ?コーチが束ね役?
眞栄田
なんだかんだいって束ねていたのはこの人(前川)ですけれどね。
用語解説
舞台監督…演出家などの意向を汲み、そのイメージを具現化するスタッフの調整・指揮・進行管理をする責任者。「ブカン」「ブタカン」と呼ばれる
制作…舞台運営における企画・進行・準備など、一切の統括をすること
裏打ち… 紙・布・革などの裏に布地や和紙を張り、厚く丈夫にすること
梅原猛先生の『王様と恐竜』…梅原猛による、スーパー狂言三部作戯曲の完結編。「王様と恐竜」は戦争をテーマに、現代の風刺であり、未来へのメッセージを折り込んだ作品

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