演じる高校生 対談

第3回

―高校の演劇部時代は、なにが大変でした?
梅野
もうー大変でした。うちは県大会に行ったのが16か17年間なくって、
賞とかもとったことがなくって。
県大会に通ったはいいけれど、地区大会翌日に「県大会の手引き」みたいなのを渡されるんですけれど、それすらも意味が分からなくって。
でもとにかく助かったのは、県大会の劇場は地区大会と同じ劇場で、
裏方さんも、僕らがあんまりにも個性が強かったので、
仲良くしてくださっていたことですね。

というのも実は、普通は地区大会で出した舞台を、そのまま詰めて
県大会、近畿大会に出すんですけれども、何を僕はバカ正直に思ったのか、
審査員や他学校の顧問に受けたダメ出しを全部取りこんでしまって、
どんどんどんどん大会ごとに変更しまくって…。
だから地区大会時と同じなのは衣装ぐらいで、セットとかは
メチャメチャ変えちゃって、ホールの人にも申し訳ないことになって。
眞栄田
おお~それは大変やな。
梅野
加えて平台を20枚近く出してもらって、
照明とかの指示の仕方も当時は、よくわからなくて
「ここは荘厳な感じで」とかってお願いしてしまって。

だから『演じる高校生』の時も(春秋座の裏方さんとも色々あったんですけれども)、照明さんにも随分、助けられた思い出があります。そちらは?
眞栄田
僕らの学校は夜間がありまして、
絶対に5時15分には退出しなくてはいけないんです。
だから準備体操とかしたら終わりで。通しさえ間に合わない時あったもんな。
前川
うん。
眞栄田
それで5時が過ぎたら近くの公園で声だしから始まって、リハとか外でした。
前川
喉も乾燥するし、着膨れしてモコモコしながら。
眞栄田
いくら声を出してもビル群に声がすわれるし。でも、すごい活発やった。
公園で冬にこんな衣装で(写真を指しながら)やってたりして。
梅野
うわー風邪ひかなかった?
眞栄田
いや、ひいてられなかった。大学に入ってすごく楽になりました。
体は丈夫になりましたね(笑)。

だけど僕らその、高校の卒業制作(卒制)って演劇ではなくて、
僕はプロダクトデザインで彼女は映像だったんですけれども、
課題にも追い立てられてまして。
前川
常に課題に追い立てられながらの部活動でしたね。
眞栄田
クラブに入らない人は、放課後は制作時間なんですけれど、
僕らはずっと、コンクールに向けてトレーニングして、
コンクールの後、怒涛のしわ寄せがきたりして。
だから結構、友達たちと遊ぶってことがなかったですね。
今の方が遊んでます(笑)。

でも、とにかく一時間半しか放課後がないっていうのと、
セット作りが一番過酷を極めましたね。
前川
そうそう。地区大会のセットは、最初はまったく違うプランだったんですけれど、単純にそれが面白くないってことになりまして
「これでは勝てない!」ってなって
眞栄田
地区大会の一週間前に、
前川
コーチとOGの先輩が「アカン!これではアカンからやりなおそう」ってなって
眞栄田
ダメだっていった翌日には箱を全部発注して、
色塗りは1週間でやって。一日、朝から夕方までね。

当時の経験が役立ったというか、高校演劇の時の延長上で
今も芝居をしているという感じですね。
梅野
僕は高校の時の経験が役立ったっていえば、役立ったこともありますすね。
卒制でも春秋座を使わさせていただくんですけれども、
一回この舞台に出してもらったことが大分、よかったなとは思いますね。
ありがたいです。

実は卒制の企画書を出す時に、会場の欄に春秋座って書いたら、
スタッフから「何考えてんねん!」って怒られたりして。
春秋座の方にも『演じる高校生』の時に大変だったことを
悪い方で覚えられていて…。
僕、テンパル癖があって、もうひどいんですよ。テンパリ具合が、
真栄田
噂で聞いたことあるわ。
前川
罵声は飛んだらしいって聞いた(笑)。
梅野
『演じる高校生』の時に慌ててしまったのは、
照明さんが僕と照明プランを作ろうって言って下さったんです。
部として、もっと全体の統制がとれていたらよかったんですけれども、
照明を作っていると、舞台の指示出しする人間がいない。
なにぶん慣れていないもので、役者は舞台上であたふたするし、
顧問は春秋座の方に何か言われいるしで、もう滅茶苦茶。
しかも2位の学校やったのに、床を全部黒リノにしてくださいって言って
「どないすんねん、この学校。お金はかかりまくるし、
時間はかかりすぎるし、平台並べまくるしっ!」てことになって。
なので色んな思い出のある舞台です。
真栄田
苦い思い出もね。
当時、僕からしたら春秋座は花道があるあたりが「お舞台」って感じで、
上がるまえに「ハハーっ」って平伏したくなりますよね。
梅野
そうですね。それまで高校演劇で経験した舞台は、
サイド花道しかなかったんでね。
僕はどちらかというと、客席の中に長い花道がある舞台で育っているので、
七三で止まるとかね、馴染みがあったんですけれども。ここで止まるとか(笑)。
真栄田
春秋座の舞台に立った時、むっちゃ鳥肌が立ったのを覚えてますね。
舞台に丸い盆とセリがあるのをはじめて見たんです。
まとめ役の人は「絶対はしゃがんといてや、絶対、はしゃがんといてや!」って。
前川
だって恥ずかしいし、絶対「わーっ」て行って、
いらんもん触って壊してしまいそうやから。
眞栄田
で反転させて、次の学校と転換するんですが、
前日に見本で乗ったまま回してくれたんですよ。
そしたら、みんなさっきまでのことを忘れてキャーキャー言って。
それから春秋座の方が、いろいろ説明してくれて。
梅野
むちゃ楽しそう~。
真栄田
楽しかったよ。前日は楽しみで、みんな眠れなかったもん。
この人は眠ってましたけれど。
前川
むっちゃ寝ましたよ。

でも、春秋座には色々な装置があるので
前セリを使うアイディアはあったんですが、断念したんです。
今思えば使っておけばよかったと思いますよ。
真栄田
アクティングエリアが前すぎた?
前川
いや、後ろすぎた。
真栄田
一番でかいセリを使おうとしたんだけれどね。
前川
普通にしゃべる会話とかも聞こえるようにしたいと思ったんで、
これは後々きついと思って、断念。
真栄田
花道も小ネタで使おうと思ったんだよね。
ほんのネタで一瞬顔だけだしてって感じで使おうと思ったんだけれど。
ピンポンダッシュするって言う風に。
梅野
僕たちのは、差し金の蝶々が出てくるような芝居だったんで
花道を使いたいというのが単純にあったし、
ここで花道にかかりたいっていうイメージが最初からあったから使いました。
気持ちよかったですね。
真栄田
歌舞伎か!
梅野
発想がやっぱり歌舞伎よりなので、演出がどうしても。
特に意図はしていないんですけれど、
蝶々を飛ばしたい場合、どうしたらいいだろうってなったたら、
黒子に飛ばさせるとかね。
真栄田
そのシーン覚えてる、むっちゃシュールやったわ。終わり方が。
蝶々が落ちてきて、パタパタしてて。
用語説明
平台…主に舞台面を高くする土台部分に使われる丈夫な台。様々な大きさあり、最もよく使用されるのは3尺×6尺(畳一畳程度)サイズ
卒業制作…卒業を前に制作する作品
プロダクトデザイン…製品デザイン
黒リノ…黒色のリノリウム。耐久性の高いゴムのような触感で、舞台上に敷く。ダンスなどでよく用いられる
サイド花道…歌舞伎の舞台のように客席の中を通る花道ではなく、舞台の袖左右に付けられた短い花道
七三…花道の揚幕から七分、舞台から三分くらいの位置にあるあたりを指す。花道を歩いてきた役者が立ち止まってせりふを言ったり、踊ったりする
…周り舞台のこと。舞台の床板中央部分円形に切り、回転できるようにしたもの
セリ…舞台に穴を開け、奈落(舞台下)から上下させて登場・退出できるようにしたもの
アクティングエリア…舞台上で幕を吊したり、演技をする空間のこと
差し金…黒く塗り、細くしなる棒。歌舞伎では蝶や鳥などをつけ、後見が飛んでいるように操る

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