イタリア・オペラに変革をもたらしたと言われている作曲家G.ヴェルディの数多く存在する名作オペラの中でも、最も有名で人気の高い歌劇『椿姫』。
アレクサンドル・デュマ・フィスの原作小説に基づいたこのオペラは、ヴェルディがパリで観た『椿姫』の芝居に感動し、一気に書き上げたといわれています。
1853年にイタリアで初演されるも、準備不足などのために初演は失敗。しかし、翌年に大成功を収めてからは世界中で上演される人気作品へと成長しました。
華やかなパリの社交場を舞台に、高級娼婦・ヴィオレッタの切なく、悲しい運命を情熱的で抒情的な美しい旋律で彩り、観る者の涙を誘います。
ヴィオレッタ・ヴァレリーは北フランスの不幸な家庭に生まれました。彼女の美しさにはどんな人をも引き付ける魅力がありました。しかし、そういう力は良く働くこともあれば、悪く働くこともあります。ヴィオレッタは多くの男たちに愛され、そして妬まれ、騙される人生を送ったのでした。彼女の人生の栄華の極み、それは彼女がドゥミ・モンド(裏社交界)の花として君臨した数年でした。しかし、その短い時間は肺病という魔の手がヴィオレッタに忍び寄ったことで急速に陰り始めます。ヴィオレッタはしばらく静養することになりました。そして数か月後、ヴィオレッタを取り巻く男たちが待ちに待ったヴィオレッタの快気祝いのパーティーの夜。この物語はそこから始まります。
多くの人々を迎えるヴィオレッタ。常連のガストンが一人の青年を紹介します。アルフレード・ジェルモン。育ちの様さがすぐにわかる好青年、しかしどこか野暮ったい。ニューフェイスの登場にドビニー侯爵は、彼が乾杯の音頭を取るようにと勧めます。
彼は「愛のときめき」についての詩をヴィオレッタに捧げます。すると、ヴィオレッタは「すぐに枯れる花のように過ぎ去ってしまう前に愛を楽しみましょう」と答えます。二人のやり取りを見ているヴィオレッタのパトロン、ドゥフォール男爵は青年の真摯さに不吉なものを感じます。皆がワルツを踊ろうと別室に去り始めたとき、ヴィオレッタは倒れます。彼女の個室まで心配に駆けつけるアルフレード。一年前からヴィオレッタを見つめ続けていたと告白する青年に今まで感じたことのない心のときめきを感じるヴィオレッタ・・・
ヴィオレッタは男爵のもとを離れ、パリの郊外にアルフレードとの生活を始めます。南フランスのプロヴァンスの豊かな家に育ったアルフレードは特に仕事をすることもなく、ヴィオレッタは生活を支えるために彼女の財産を手放し始めています。こんな生活はいつまで続くのだろう… ヴィオレッタも、召使のアンニーナも不安を隠せません。そこへやって来た一人の紳士。彼こそアルフレードの父、ジョルジョ・ジェルモンでした。彼はいきなりヴィオレッタのことを「息子を堕落させた女」と罵倒します。ヴィオレッタは思わず、これまで手放した財産のリストを彼に見せます。ヴィオレッタが息子にどれだけ尽くしているか知り、驚く父親。しかし、ジェルモン家の幸福を壊さないでほしいと、彼女にアルフレードから身を引くように懇願します。ヴィオレッタは自らが死に至る病に侵されていることも告白しますが、父親は妥協しません。ヴィオレッタは泣く泣くアルフレードに別れの手紙を書きます。そこへやってくるアルフレード。ヴィオレッタは突然涙を流しながらアルフレードに愛を告げて立ち去ります。彼女からの手紙を読むアルフレード、ドゥミ・モンドの世界に戻るというヴィオレッタの言葉に激怒したアルフレードは、故郷へ一緒に帰ろうと誘う父親を残してパリへと向かいます。
ヴィオレッタの友人、フローラの館では、豪華な夜会のクライマックスを迎えています。賭博場で大金を手にしたアルフレードは男爵と共に現れたヴィオレッタを見つけます。彼女の真意を問い詰めるアルフレード、ヴィオレッタはしかし、彼の父親と交わした約束を破るわけにはいきません。なぜなら、それは彼の幸せのためなのですから。怒りのあまりアルフレードは人々を集め、手にした札束をヴィオレッタに向かって投げ捨てます。倒れるヴィオレッタ・・・・ そこにジョルジョが現れ、アルフレードを叱責します。それぞれの心の思いが交錯する幕切れです。
アルフレードと男爵は決闘し、男爵は傷を負い、アルフレードは外国に追放されます。ジョルジョはやっと息子に真実を話し、アルフレードはヴィオレッタのもとに駆けつけます。謝肉祭の日、パリは大騒ぎですが、ヴィオレッタは家具もほとんどない部屋で死を迎えようとしています。「道を外した女に憐れみを・・」と祈るヴィオレッタ。アルフレードはパリを離れて愛の生活を始めようといいますが、彼女にはもう生き続ける体力は残っていません。ジョルジョや医者も見守る中で彼女は死んでゆきます。「蘇るの、生きるの!」と声を残して。
演出家 三浦 安浩