歌劇「セヴィリアの理髪師」全2幕


前列左から 奥村哲也(指揮)、松山郁雄(公演監督)、今井伸昭(演出)
後列左から 郷家暁子、川越塔子、鶴川勝也、中川正崇

6回目を迎える「春秋座オペラ」。 今年の演目はドタバタ喜劇が人気の『セヴィリアの理髪師』です。 12月12日(土)、13日(日)の公演に先立ち 劇場楽屋にて記者会見を行いました。 公演監督でありバルトロを務める 松山郁雄さんをはじめ キャスト・スタッフの方々の和気藹々とした雰囲気は、 稽古場の楽しい雰囲気そのまま。 どんな公演内容になりそうか、記者会見当日の様子をご紹介します。

春秋座顧問プロデューサー 橘市郎 春秋座オペラとは

この春秋座は京都造形芸術大学前・理事長と三代目市川猿之助(現・猿翁)芸術監督(当時)が「歌舞伎とオペラが理想的にできる劇場」をと2001年に建てた劇場です。三代目猿之助さんは、パリのシャトレー劇場でオペラ『コックドール』の演出をし、ヨーロッパでも高く評価されましたし、また愛知芸術劇場の杮落としでも『影のない女』を演出するなど、歌舞伎俳優であると同時にオペラ演出に非常に興味を持っていました。  私と三代目とは、東京でモーツアルトの『イドメネオ』を『イダマンテ』というミュージカルに直した時からのお付き合いですが、この劇場が出来た時に三代目からお声をかけていただいたのは多分、私がオペラのプロデュースもやるということだからだと思います。私も劇場ができたあかつきには、猿之助さん演出で宙乗りやセリを使い、スペクタクルにとんだ『魔笛』をやりたいなと思っていました。ところが、いざ開けてみますとキャパは通常850席、オケピを使うと750席弱となり、大掛かりなオペラは、ほぼできない。その上、隣にはびわ湖ホールはあるし、大阪にはフェスティバルがある。また、その頃からロームシアターの噂も出ておりましたから、春秋座でオペラを上演するからには、その特殊性を考えなくてはいけないなと思いました。 オペラというのは、生の声の魅力を聴かせるというのが一番にあります。そこで他の所は工夫をして節約をするとしても、歌手は一流の方に来ていただいて公演をする。それから歌舞伎劇場という特殊な機構を活かした演出をする。また、非常にキャパが少ないので大掛かりな引越し公演をするとチケットが一枚5万円以上になります。そこをなんとかチケット代を1万円以内にして、観て聴いていただき、感動していただけるものを作りたいなと考えました。 そこで2公演目の『ラ・ボエーム』からは、30年来のお付き合いのあるミラマーレ・オペラの松山さんに監督をお願いして、

  1. 声楽という芸術の魅力をお伝えする
  2. 歌舞伎劇場という機構を生かした演出をする
  3. 敷居が高いといわれるオペラを1万円以下で上演する

という、今の「春秋座オペラ」の形を作っていきました。

それでは、その公演監督の松山郁雄さんに司会進行をお願いします。

公演監督 松山郁雄/バルトロ 松山いくお ロッシーニ作品は稽古場が面白い! 

松山郁雄でございます。 気がついてみれば、関東と関西の歌手のコラボというのが定着してきているような気がします。別に喧嘩しているのではなくて、「やりたいね」といっても実際やるとなると、いろいろな問題が出てくるのですが、春秋座オペラではそれが実現できる。そのことも楽しく素晴らしいことだと思っています。

1816年の「セヴィリアの理髪師」初演から来年で200年目になります。こうやって200年間もみんなが面白がって上演しているからには、何か理由があるんだろうなって思っております。それをもっと面白く上演するために今、スタッフ、歌手が一丸となって知恵を絞って稽古をやっています。 ロッシーニオペラの一番の特徴は稽古場が面白いことです。オペラ歌手というのは、きちんと正確に歌うことを刷り込まれていて、アドリブはあまりないんですね。ですが、その分、ロッシーニさんは笑いのタイミングまで考えて作ってくれているんだなと思うぐらい、非常によくできている。逆に、きちんと歌っていることで思わず笑いがでてくるんです。それがロッシーニの特徴だなと思います。ですから稽古場では笑いが絶えないんです。その面白さを稽古場で終わるのではなく、舞台からエネルギーを加えて届け、それが客席にも伝わる、そんな舞台にしたいと思います。 私はドン・バルトロという医者の役なのですが、オペラ喜劇における医者という役は、大体ケチ、スケベ、金持ちなんですね。このオペラをよくよくみると、みんなして老人をいじめるという話なんです。ですから、このオペラを見て「老人は大切にしなくてはいけない」と思っていただけたら、大成功じゃないかな(笑)と思っております。 ここで、マエストロの奥山さんにバトンタッチしましょう。

指揮・奥村哲也 オーケストラと歌手のコラボを客席から楽しむ

指揮者の奥村哲也です。 このブッファ(喜劇)オペラは、ロッシーニの軽妙な音楽と人間模様が描かれた作品です。ブッファの一番大事なところは、一生懸命、生きている人たちだからこそ、見ていて面白いということ。なんとも人間臭いというか、我々の身近に「あぁこういう人いるな」というキャラクターばかりでございます。

『セヴィリアの理髪師』は有名な作品ですが、どこでも上演している作品ではありません。その理由の一つに非常に歌唱が大変だということがあります。 また、メゾソプラノで書かれていますが、通常は、ほとんどソプラノで歌われます。今回はソプラノと、非常に珍しく本来の楽譜通りのメゾとの2バージョンを上演いたします。私としてもこういうことは初めてで、新たな発見をしながら毎回の稽古を楽しんでおります。 他にもテノールのアルマヴィーヴァ伯爵、バリトンのフィガロ、バルトロもそうですが、オペラ歌手だからみんなこの作品を扱えるのかといえば、そうではなく、やはりこういう軽妙な作品は技巧の苦しさをお客様に見せるわけにはいきませんから、難しいですね。そういう意味では、どのキャストも素晴らししいです。本当に楽しい笑いの絶えない稽古場でして、その雰囲気がお客様にも伝わるといいなと思っております。 春秋座は以前、オペラ『月の影』の時に指揮をさせていただいたのですが、お客様の息遣いが非常に近くに感じられる劇場です。いわゆるフルオーケストラによるグランドオペラではなく、ブッファの息遣いが楽しめる劇場です。ですから少しコンパクトな編成にしてオケピを浅い状態に作り、客席からオーケストラと舞台が一つの視野の中に感じられる、歌い手さんの息遣いに加え、オーケストラとコラボする様子が楽しめる。そんな風にしたいと思います。オケも舞台と一緒に動いているところも楽しんでもらえたら。それが春秋座ならできるのではないかなと思っていて、それを今回はチャレンジしてみたですね。

― 松山 次は演出の今井さん。演出の今井伸昭も基本的には東京在住の演出家です。

演出 今井伸昭 松竹新喜劇に近い?!

今回、狙っているのは「いかに字幕を見せ無いか」ということ。 つまり喜劇なので、感覚で観てもらって指をさして笑ってもらえたら、と考えています。作品は「くだらないもの」が詰まった宝石箱のようですから、オペラだからといって構えるのではく、何も考えず観て笑っていただけたらと思います。なんというか、松竹新喜劇に近い(笑)感じ、だと思っていただければと思います。喜劇のくだらなさというか、本当に台本の中身が無いんです(笑)。 僕は東京生まれの東京育ちですが、とても関西のノリや水が合うんですね。藤山寛美さんの芝居もよく観ていて、大阪に来れば必ず吉本には行きますから、作品の中に、そういう雰囲気が出るのではないかと思います。それに僕は喜劇の演出が多いものですから、喜劇の魅力を最大限に伝えたいと思っています。

それに基づいて毎度、稽古場でひらめくと、歌い手さんにそれをやっていただくんですが、みんな嫌な顔をしながら毎回やってくれます(笑)。本当に良い仲間なんです。 その上、個性があるのでAプログラム、Bプログラムで芝居が変わってしまっていまして、本来、A、Bと分けるのは誰かが倒れた時のために片方が片方のスペアという意味があるのですが、全くスペアにならない。突然、片方の組に加わると、かみ合わないんですね。ですから歌手のみなさんケガをなさらないでください(笑)。

― 松山 お客様に指をさして笑ってもらえたらと言っておりましたが、私は親には「人に指を指されるような生き方をするな」と言われてきました。でも舞台上ではそれもしかたがないですね(笑)。 続いてヒロインにまいりましょう。

ロジーナ役 川越塔子 生きる喜びを噛みしめて?!

1日目のロジーナ役を務めます、川越塔子です。 春秋座オペラ1作目の『夕鶴』の時は鶴に戻って空に帰っていきまして、2作目の『ラ・ボエーム』の時は肺病で死にました。『蝶々夫人』の時は懐剣で自殺をいたしまして、『椿姫』の時は再び肺病で死にました(笑)。今回は死ななくていいということで、生きる喜びを噛みしめながら楽しく稽古をさせていただいております。 初日は私がソプラノで演じますが、2日目は元々の楽譜に忠実にメゾソプラノの郷家さんが演じます。ソプラノバージョンではメロディを大幅に変えたりしているところもありますし、お芝居も変わっていると思います。2日間とも全く違うものになると思うので、ぜひ2日間続けて見ていただけたらと思います。  春秋座はオケピのある劇場としては小さいですが、日本人の歌い手にとっては、歌いやすい、とても"手に負える"劇場で好きです。お客様が近くにいらっしゃるので、細かい芝居の一挙手一投足が伝わるという緊張感もある劇場ですね。

ロジーナ役 郷家暁子 スタイリッシュVSベタベタ

私、生まれは関東ですが、現在は京都に住んで8年になりました。今までは大阪での舞台が中心だったのですが、やっと京都で初舞台を踏ませてもらえることになりまして、その喜びを噛みしめて稽古をしております。

1日目は、ロジーナの川越さんとフィガロの鶴川さんが関東出身ということで、とてもスタイリッシュな舞台になっています。2日は私も大分、関西弁が板についてまいりましたし、相方の中川さんも大阪にお住まいなので関西パワーでドタバタを繰り広げてまいりたいなと思っております。

1日目のスタイリッシュさと2日のベタベタさを見比べて、プププと笑っていただけたらと思います。(笑)

― 松山 では、2日目、ベタベタのアルマヴィーヴァ伯爵役の中川正崇さん(笑)。

アルマヴィーヴァ伯爵役 中川正崇 客席と舞台のやり取りが、どんどん膨らんでハッピーエンドに

歌舞伎とロッシーニのオペラとができたのは、ほぼ同じ時期で、民間に見てもらう現代劇としてできたものなのであり、2つは共通点が多いのかなと思っています。

音楽は単純に書かれているのですが、演じ手とお客さんのコミュニケーションがある作品です。客席から笑いが出たら演じ手も、もっともっと楽しく演じて、それがどんどん膨らんで最後はハッピーエンドになる、そういう舞台になると思います。

松山 最後は初日のフィガロ役、鶴川勝也さん。

フィガロ役、鶴川勝也 夢見た役・フィガロ

フィガロは、バリトンにとっては一度は演じてみたいと夢見る役です。ですから、とても光栄に思います。歌うだけでも大変な役なのですが、自分なりのフィガロの理想像を追及して表現できたらなと思います。

笑いに厳しい関西のみなさまに笑っていただけるよう、全力で演じ切りたいと思っております。

大人も子供も楽しめる、楽しいオペラ公演になりそうです。 ぜひ、お誘いあわせの上、劇場へ足をお運びください。

公演情報はこちら↓ 公演情報へ