ギリシャ悲劇はダンスや音楽、
怒りに涙、笑いが詰まった一大エンターテインメント!
1980年イギリスで初演された、10本のギリシャ悲劇をひとつの物語に再構成した長編戯曲『グリークス』。全三部構成で、上演すると10時間にも及ぶ超大作です。
昨年KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『オイディプスREXXX』で初めてギリシャ悲劇に挑戦した演出家の杉原邦生が“いま、この時代に上演すること” をテーマに
KUNIOが取り組み続けている新翻訳戯曲で挑みます。稽古に入ったばかりの5月下旬。出演者の安藤玉恵さんと杉原邦生の対談を行いました。
– 二場 女性的な視点がポイント
– 三場 人間の愚かさ、醜さ、愛おしさがグッと詰まった話
第三幕 ピクニック気分で10時間 (10/18公開)
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二幕二場 女性的な視点がポイント
安藤 今日は聞きたいことを書いてきたの。いくつかあるんですが。(スマホを取り出す)
杉原 そこに書いてあるんですか? うわ!何を聞かれるんだろう。
安藤 私が今、子育て中であることも関係するのですが、
“女” であることも “お母さん” であることも、たやすくないんです。
2000年以上も前に書かれたこの台本を読んでいて、
私の中にあるフェミニズム的な感情に気付かされたのですが、
2019年、令和元年にこれを上演するにあたって
男女の差別を考えたりされましたか?
杉原 まず、僕がこれを読んだ時に、
女性の視点というのがこの作品にとって、とても大事だと思ったんです。
この戯曲に出てくる男性たちは、命をかけて戦争に行ったりして、もちろん大変なんだけれど、
なんだかみんな弱っちくて女々しくて、すごくバカバカしいんですよ。
だって、戦争しているのにずっと女の取り合いとかしていて。
安藤 確かに(笑)。
杉原 そんなやつらばっかりなんです(笑)。
一方で、女性は奴隷として物のように扱われて圧倒的に弱い立場にあるんだけれど、
タフで知的で生命力がある。
結局、男性が女性に振り回されているようにも見えるんです。
母なる海とか、母なる大地という言葉もあるし、
『グリークス』の冒頭で世界創造の神話が二つ語られるんですけど、
どちらも女性が世界の起源になっているんです。そういう意味でも、
女性の存在の豊かさをこの戯曲から感じたし、
女性がとても人間的で魅力的に描かれていると思います。
だから、この戯曲の新訳をつくる際、翻訳は女性の方にお願いしたいと思ったんです。
安藤 ああー、
杉原 それで、翻訳を小澤英実さんにお願いしました。
この話の中では、神と人間、男と女というふうに対になるもの同士が、
それぞれ常に影響しあって存在しているという構造がとても明確で、
その部分をきちんと見せていきたいなと思っています。
安藤 神でさえ男神と女神という性別に分かれているんですもんね。
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杉原 そうなんですよね。
安藤 神でも男女差別があるのか!? なんて考えながら読んじゃったりして。
それで翻訳の方が女性だったんですね。
それは聞いてよかったです。杉原 それに、翻訳の流行りもあるんですが、
小澤さんは「~わよ」とか「~なのよ」とかあまり女性言葉を使わないんです。
すごく女性的な部分を押し出している役とか、特定の役にしか使っていなくて、
言葉だけ取ると男か女か分からないようになっているんです。安藤 へー。
杉原 だから、僕からここ「~わよ」にしてもいいですか? って聞くと
「あ、この役はあんまり女っぽくしたくないんで」って。安藤 なるほどね。
でも、語尾は重要だから、私は今すごくやりやすくて。何の違和感もないです。杉原 そう言ってくださって嬉しいです。小澤さんも喜ぶと思います。
安藤 私、「女優」っていうの好きではないんですよね。
だって物語の中には平等に男と女がいて、両方がいなければ作品にならないわけですから。
普通に生きていれば差別って、いくらでもあるんですが
作品を作る現場にいるとそれが無いんです。
そういう意味でも現場って、すごく居心地がいいんです。
会社員の女の友人たちと話していると
「え、まだそんなことあるの?」っていうこと沢山あるんですよね。
ごめんなさい、こんな話になっちゃって。杉原 でも、この作品の中には、そういうことも含まれていると思います。
安藤 女であることの喜びも見い出せたらいいなと思います。
二幕三場 人間の愚かさ、醜さ、愛おしさがグッと詰まった話
安藤 あとね、登場人物のコロスって“人”なんですね。
台本を読んだ時、コロスって人じゃないと思っていたから、
稽古が始まった時、衝撃でした。
コロス、人か!!って。
杉原 あははは(笑)。イメージでは妖精的な感じでした?
安藤 そう。足がないとか。
いわゆるバックボーンが想定できない役をするときって、
とにかく言葉を読むんですが
コロスはシーンによって奴隷だったり、側女だったりして。
杉原 コロスはギリシャ悲劇特有の存在なので、
演出家のカラーが最も現れる部分ですね。
同様に、神という存在もギリシャ悲劇ならでは。
『グリークス』でも第三部では実際に登場しますけど、
ギリシャ人たちはずっと神に翻弄されているわけですよ。
直接的にも間接的にも、かなり支配されている。
でも、神話自体もそうですけど、神ってそもそも人間が作り出したものじゃないですか。
安藤 そうよね。
杉原 だから神は演出的にも、人間的でいいんじゃないかって。
あんなに、みんな「神様、神様」って言っていたのに、
出てきたら大阪のおばちゃん的な人だったり(笑)。
安藤 逆にね(笑)。なるほどね。
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杉原 こんな人が俺らの運命決めてたんかい、って。
僕らがつくっている神って、そこらへんにいる気がするんですよ。安藤 そうよね。神様って、今、私が欲しい力って感じがするもん。
例えば今ならね、稽古場が遠いから、一瞬で“どこでもドア”みたいに
稽古場に連れていってくれる神とか(笑)。杉原 あはは(笑)。
安藤 その程度ですよね。無宗教ですとね。
杉原 『グリークス』で描かれている神もすごく人間的なんですよね。
人間の愚かさ、醜さ、愛おしさがグッと詰まっているんですよ。安藤 そしてこの話が作られたのは紀元前でしょ?
それがいいんですよね。一神教ではない時代の話ですもん。杉原 確かにそうだ。
安藤 いろいろな神様がいるから、日本人にも合っている気がする。
さっきも家具に足の小指をぶつけて、「オーマイガッ!」っていって(笑)
それもそうじゃんって。
何の神か分からないけれど、むっちゃ痛い!って。杉原 確かに(笑)。
宗教的な部分での分からなさって『グリークス』にはないですよね。
第三幕 ピクニック気分で10時間 へ続く (10/18公開)
公演情報

京都芸術劇場 春秋座
昨年『オイディプスREXXX』で初めてギリシャ悲劇に挑戦した杉原邦生が、10本のギリシャ悲劇をひとつの長大な物語に再構成した長編戯曲『グリークス』全三部連続上演に挑む!
春秋座では、木ノ下歌舞伎『勧進帳』(2016)、『東海道四谷怪談ー通し上演ー』(2017)、演じるシニア2018『レジェンド・オブ・LIVE Ⅱ』(2018)に続く杉原邦生演出作品の登場。
”いま、この時代に上演すること”をテーマにプロデュース公演カンパニーKUNIOが取り組み続けている新翻訳戯曲上演の最新作として、今回のために小澤英実が新たに翻訳を担当。上演時間10時間におよぶ大作をお見逃しなく!