ギリシャ悲劇はダンスや音楽、
怒りに涙、笑いが詰まった一大エンターテインメント!
1980年イギリスで初演された、10本のギリシャ悲劇をひとつの物語に再構成した長編戯曲『グリークス』。全三部構成で、上演すると10時間にも及ぶ超大作です。
昨年、KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『オイディプスREXXX』で初めてギリシャ悲劇に挑戦した演出家の杉原邦生が”いま、この時代に上演すること″をテーマに
KUNIOが取り組み続けている新翻訳戯曲で挑みます。稽古に入ったばかりの5月下旬。出演者の安藤玉恵さんと杉原邦生の対談を行いました。
第二幕 ギリシャ悲劇は一大エンターテインメント (10/4公開)
二場 女性的な視点がポイント
三場 人間の愚かさ、醜さ、愛おしさがグッと詰まった話 (10/11公開)
第三幕 ピクニック気分で10時間 (10/18公開)
第一幕 出会いは春秋座
- ―― お二人の出会いはいつ頃ですか?
杉原 学生時代に当時、玉恵さんが所属なさっていた劇団ポツドールの公演を観て
すごい女優さんがいる!!! って。
そこからファンになったんです。
それで、なんと京都造形芸術大学(以後、造形大)で初対面できたんです。安藤 そうそう。 私が舞台芸術研究センターで主催されたリチャード・フォアマンの
ワークショップのプロジェクトに参加した時にね。杉原 そのプロジェクトに参加していた後輩や友達に
「安藤玉恵いるんでしょ?会いたい!!!」ってお願いして。
あ、当時はただのファンなんで呼び捨てだったんですけど、すみません(笑)。
それで「ファンです!!」って挨拶させてもらったんです、ドキドキしながら。
たしか、春秋座の舞台裏だったと思います。 - 安藤 そうでしたね~。
――ということは春秋座の舞台裏でお二人は出会われたと。
杉原 そうなんです、出会いは春秋座。
あれは2006年だから、KUNIOは立ち上げていたんですけれど、
まだ1回しか公演していなくて。
僕も、作品をつくるよりお客さんでいる時間の方が多かった時期です。安藤 私は東京でポツドール以外、ほぼ出ていないのにもかかわらず、
ポツドールが好きということ自体にもびっくりで。
京都にそんな方が?って。杉原 当時、ポツドールという劇団がどうやら面白いらしいって聞いて東京へ観に行ったんです。
主宰の三浦大輔さんが岸田國士戯曲賞を取ったすぐ後の作品『夢の城』が
初のポツドール体験だったのですが、これ、平成の太田省吾じゃん!って。―― その頃、杉原さんは太田省吾さんに教えていただいていた時期でしたもんね。
杉原 そうなんです。『夢の城』もセリフが一切ない作品で、
太田さんとは全く異なるメソッドだけれど、ある意味で同じ「沈黙劇」だと思ったんです。
それを成立させる世界を創っていることが衝撃的で。
もちろん、その後観たセリフの芝居もとても面白かったんです。
そこから劇団のファンにもなりました。―― 舞台で安藤さんを観た時、どういうところに惹かれたんですか?
杉原 どこがどうだったとかはもう覚えていないんですが、
とにかくずっと玉恵さんを見ていたんです。安藤 へー。
―― ひき込まれる部分があったんですね。
杉原 そうですね。だから、ご挨拶した時、目の前にいらっしゃることが夢のようでした。
安藤 ええー!!!そんなこと! びっくりしちゃいますよね。
杉原 当時はまだ舞台の勉強をし始めた頃だったから
舞台上の人もテレビの中の人と同じような感じだったんでしょうね。
あ、本当にいるんだ!って(笑)。安藤 小汚い格好していたのにねえ。
― 当時の杉原さんは、どんな印象でした?
安藤 すごく意欲的でした!
そして、いずれきっと東京で活躍するんだろうなと思いました。 -
杉原 本当ですか!それは嬉しい。
安藤 エネルギーがありましたよね。
杉原 そのあと、僕の初めての東京公演
木ノ下歌舞伎『yotsuya-kaidan』(2007年|こまばアゴラ劇場)を
観に来てくださったんですけど、終演後に「女優さんの演出が上手いね」って
感想を言ってくださったんです。
安藤 へえー。何だかエラそうなことを言ってしまって…(笑)
杉原 覚えていらっしゃらないみたいですけど(笑)。
でも、今回の作品、女性の出演者のほうが多いんです。
一般公募のワークショップ公演以外の公演で、女性のほうが多いのは久しぶりなので、
そこに玉恵さんがいてくださるのは心強いです。
それに「女優さんの演出が上手い」って言ってくださっていたけど、
今回の俺、大丈夫かなって(笑)
安藤 大丈夫です。みんなすごく楽しくやってます!
―― 安藤さんは映画やテレビドラマにも沢山ご出演されていますが
舞台と映像ではアプローチの方法を変えたりされるんですか?
安藤 芝居する上で準備の方法は変わらないのですが、
役者にまつわる全ての作業の中で、私、稽古が一番好きなんです。
稽古中に積み上げていく感じって舞台しかないんで。
映画はリハーサルが1回か2回ですからね。
だから稽古が面白くてしょうがないんです。
杉原 へえ~。
安藤 うん。他の人のを見ているのもすごく楽しいんです。
杉原 僕が玉恵さんをいろんな場で見ている感触ですけど、
映像も舞台も、そして普段もすごくシームレスですよね。
安藤 うん。そうあんまり変わらない。
―― 役者さんによってはスイッチを変える人もいらっしゃいますよね。
杉原 そのほうがやりやすい方もいらっしゃいますよね。
安藤 役がね、最初は「知らない人」だったのに
稽古をしているとだんだん「知っている人」になるんですよね。
杉原 へ~、やっているうちに?
安藤 そう。どの役もそうなんです。
だから、だんだん同じになってきて。
杉原 自分と?
安藤 そう。差が無くなってきちゃうの。
杉原 今回もそうですか?
安藤 昨日の夜ぐらいから、だんだん共通点を見つけ出してきてね。
あんな、すごい王妃の役なのにね(笑)。そこが面白くてしょうがない。
杉原 そこをキャッチすると、ご自身の中で役がぐわーっと広がってくる感じですか?
安藤 というかね、ほら、今回はあんまりお茶の間感を出しちゃいけないから(笑)
杉原 ギリシャ悲劇だから?(笑)
安藤 私、どこにでもいる、リアリティのあるおばさん役をよくやるんですけれど、
でも今回は、お茶の間感をいかに出さないかということも課題だと思っていて。
役がすごく近づいてきたことで、リアリティという意味では
しっかりセリフが言えるようになったんですけれども、
これでいいのかは本当におまかせ。
杉原さんに身体を投げるしかないです。
――安藤さんに女優の演出が上手いと言われましたもんね。
杉原 それ、本当かなー。すごくドキドキしているんですけれど。
安藤 だんだん、みんな文句言い出したりしてね(笑)。
杉原 バッシングの嵐になったらどうしよう(笑)。怖いわあ。
今回はキャストの幅がすごく広いんですよね。
そして、色々なタイプの役者さんがいるんです。
例えば日本初演の『グリークス』に出演していらした
文学座の外山誠二さんがいらっしゃったり、
NYLON100℃の松永玲子さんがいらっしゃたり。
オーディションからのフレッシュな顔ぶれも入っています。
安藤 年齢や出身もバラバラですね。
杉原 僕はキャストを選ぶときに多様性を持たせることが好きなんです。
世界って同じような出自や性質の人だけで、できているわけじゃない。
だから、いろいろなタイプの役者さんがいる方が
作品の世界も広がる気がして。
それに、この作品にはそういうキャスティングが
非常に合っているような気がしています。
―― 他のキャストの方についても少しお聞きしたいのですが、天宮良さんの印象はいかがですか?
杉原 舞台でどっしりとした存在感をお持ちだし、軽やかさもユーモアもある。
舞台座組を引っぱっていってくださるだろうなと思います。
―― 小田豊さんは?
杉原 もう、頼りにしまくっています!
大先輩なので、読み込み方も芝居のキャッチの仕方もさすがです。
(台本の)読み稽古だけでも面白いです。いつも学ばせてもらっています。
安藤 今回、何人ぐらいオーディションの方がいらっしゃるんですか?
杉原 河村若菜さん、井上夕貴さん、森口彩乃さん、中坂弥樹さん、尾尻征大さんの5人ですね。
安藤 それ以外の若手の方は?
杉原 オファーを出しているんです。
永井茉梨奈さんは、僕が造形大で教えていた時(2012〜13年度)の教え子なんです。
その後、新国立劇場の養成所に行って。
学生の時からいいなと思っていたのですが、先日、養成所の修了公演を観にいって、
やっぱりいいなと思って、声をかけさせてもらったんです。
―― 若手の方々にとったら安藤さんはじめ
ベテランの方がいる中に飛び込めるって、とても素晴らしいですね。
杉原 いいですよね。
井上向日葵さんも造形大の卒業生ですしね。
今年の3月に卒業したばかりなんです。
安藤 22歳?
杉原 そのぐらいですね。尾尻征大さんも同じくらいかな。
安藤 うわ~、もう娘、息子みたいですよね。
完全にお母さん感が出ていますよ、私(笑)。
―― 今回は、このキャストの多様性も作品に取り込んでいると。
杉原 そうですね。
楽しみでもあるし、逆に同じロジックで演出を付けていけないので。
安藤 あー、そうかぁ。
杉原 でも、それも楽しいんです。
一人一人にパーソナルレッスンを付けているみたいな。
全員のパーソナルトレーナーになるような感じが楽しい!
安藤 それがとっても上手だと思います。
この人にはこういったら伝わるという言い方が。
だから今回、稽古の様子を見ているのがとても面白いんです。
第二幕 ギリシャ悲劇は一大エンターテインメント (10/4公開) へ続く
公演情報

京都芸術劇場 春秋座
昨年『オイディプスREXXX』で初めてギリシャ悲劇に挑戦した杉原邦生が、10本のギリシャ悲劇をひとつの長大な物語に再構成した長編戯曲『グリークス』全三部連続上演に挑む!
春秋座では、木ノ下歌舞伎『勧進帳』(2016)、『東海道四谷怪談ー通し上演ー』(2017)、演じるシニア2018『レジェンド・オブ・LIVE Ⅱ』(2018)に続く杉原邦生演出作品の登場。
”いま、この時代に上演すること”をテーマにプロデュース公演カンパニーKUNIOが取り組み続けている新翻訳戯曲上演の最新作として、今回のために小澤英実が新たに翻訳を担当。上演時間10時間におよぶ大作をお見逃しなく!