行列のできる演出家 岩田達宗さんにお聞きしました。

今年の9月、春秋座で、日本を代表する豪華ソリスト達とオーケストラを迎え プッチーニ作曲『ラ・ボエーム』を上演します。 演出するのは今、人気沸騰中の岩田達宗さん。 サービス精神にあふれ、周りにいる人を明るく楽しい気持ちにさせてくれる、 そんな魅力的な方です。 岩田さんに、演出にかける思いなどを プロデューサーの橘と制作の大嶋が伺いました。

第3回 抱きしめて走る

大嶋
ところで岩田さんのプロフィールを拝見していて、 面白いなと思ったのですが。
岩田
そうですか?
大嶋
普通の大学を卒業されてから、劇団「第三舞台」に入られたんですね。
岩田
ええ
大嶋
学生の時は舞台をやったりとか、 音楽に関することをされたりしなかったんですか?
岩田
しいていえば、アルバイトをしていたんですね。 荷物運びの小僧を、あくまでもアルバイトで。 大学入った時は、大学院に入って研究者になる予定でしたから。 そしたら担当の先生が、僕が大学2年の時に退官しやがったんですよ。 その先生に学びたいがために勉強して試験受けて、 大学入ったら2年で退官されちゃって。 で、グレて大学に行かなくなって、アルバイトしてたんです。 ただ、その時体育会でラグビー部だったんですね。 力持ちでしょ?バイトの発注がくるんです。荷物運びの。 みんな勘違いしているんですけれども、外語大だから、 英語がしゃべれるんじゃないかと思うんですよ。できやしませんよ(笑)。
大嶋
そうなんですか?
岩田
できません、できません。 みんな誤解があるから、 ちょっとぐらい外国語ができるんじゃないかっていうことで、 外国のバレエとかオペラが来るじゃないですか。
大嶋
ええ。
岩田
来日公演時の荷物運びのアルバイトを外語大の柔道部とか 重い荷物を持てそうな学生に頼めばいいじゃないかと。 で、雇われて、行っているうちに目をつけられちゃったんです。 「オペラやれ、セカンドスタッフにならないか」と言われたんですけれど、 あんまり好きじゃなかったんですよ。正直、オペラとか。 なんだこれって。 ただ、大学では進路がなくなっちゃったんで、 ラグビーやるか、映画が好きだったんで映画を沢山見ているうちに、 舞台も見てみたら、すごくいいなって。 あの頃だから劇団四季があんまりミュージカルとかやっていない時ですね、 鹿賀丈史や市村正親とかがストレートプレイをやっている頃の劇団四季とか、 ミュージカルなら松本幸四郎が染五郎だった頃の 『ラマンチャの男』とか面白いなと思って。 ちょうど僕が大学に入ったのが80年代初頭だったんです。 それこそ富山県の利賀村とか京大の西部講堂が元気だった頃ですよ。 その流れじゃないですけれども、ボブウィルソンとかね、 メレディス・モンクとか寺山修司とか そういう舞台をやっている劇団を渡り歩いていたんですよ。小僧で。 第三舞台の小僧で利賀村にも行ったら 鈴木忠志(演出家。1939年―)に「壁が欲しい」といわれて壁になって、 「石が欲しい」と言われればパンツ一丁になって石になって。 「鈴木忠志なんか大っ嫌いだ!」と思いながら、 バイト代も貰わないで小僧をやっていたんです。その頃、利賀村に来ていた 川村毅(京都造形芸術大学 舞台芸術学科長・教授)さん なんかにもよくしていただいてね。 でも、就職もしないでそんなことをしていたんで、 第三舞台に就職したんです。
大嶋
第三舞台では役者を?
岩田
いえいえ、この道一本です。俳優の経験は、石とか壁の経験だけですね。 一応、一言セリフも付いていましたけれどね(笑)。
大嶋
でも発声がいいですよね。
岩田
あ、それは僕、家がお寺だったんです。
大嶋
そうなんですか!!
岩田
実家がお寺だったんで、声明しょうみょうみたいなものをやっていたんです。 ずっとお経をあげているもんですから…声明って結局、日本音楽ですよね。 それで鍛えられた声なんです。 ただ、何の偶然か分からないんですけれども、 ちゃんと発声も勉強しようと思って習いに行ったこともあるんです。 ドイツ人の先生に習いまして。 そしたら、あぁ、声明も声楽も通じるところがあるんだなって。 後にまさか自分がオペラの演出をやるなんて、 その時には思わなかったわけですけれどもね。 専門としてではなく、習っただけですね。 あと、ラグビーですね。声を出しますからね。ギャー!って。 僕ね、アメフトとかは嫌いなんですよ。野球も嫌いなんですよ。 道具を使うの腹が立つんですよ(笑)。
大嶋
そういう意味では、選択肢としてサッカーはなかったんですか?
岩田
サッカーは足しか使えないでしょ。 ボールをね、抱きしめて走るっていうのが、なんとも心に触れたんですよ。 ラグビーの基本ってね、こういう風に
 
 
ジョンウィンがライフルを持つように抱きしめるでしょ。 なんていうのかな、クリント・イーストウッドとかの マカロニウエスタンみたいな拳銃の使い方の西部劇は嫌いなんですよ。 じゃなくて、ジョン・ウエインがライフルをこう、愛しげに持って… 古いアメリカの西部劇とかは。こう、抱きしめるでしょ。ライフルを。 あれがいいんですよ。僕。 こういうの(クリント・イーストウッドのライフルの抱え方をマネして) 野蛮だなって思っちゃうの。 でもって、ボールを抱えて走って行って生身の肉体にバーンと倒されて、 で、ボールを持っているのが絶対先頭です。ラグビーは。 で、後は頼んだって。後ろの人間に託していくっていうのが、 何とも言えず、琴線に触れたんです。下手ですけれども、大好きなんですよ。 それをね、防具付けたり、棒を持ったりとかね、大嫌いなんですよ。 バレーボールなんか、ネットを張って、 ボールをあっち行けって押し合いでしょ?あれ、結局。 嫌ならやめろって言っちゃうんだよね(笑)。 なにか抱えているなみたいな、そういうのが好きなんですね。 映画好きだったのが舞台に行っちゃったのも 何かそういうのがあるんでしょうね。 俳優が舞台に上がっていく時に、何かいっぱい抱えているなっこいつはっ ていうところがよかったんです。
 
 
それは映画の俳優さんも一緒だと思いますけれどもね、 バレエもそうだと思います。 でも、昔、歌舞伎座で鳥屋口の中が観えた時、 お弟子さんとかが沢山、中にいて、 揚げ幕を引く人が、シャーッて勢いよく引いて いろんな物を抱えて役者が花道を出ていく姿を見た時、 「ああーやっぱり団十郎って名前があっても、 その人一人ではなくて、これだけの人たちの思いを抱えて お客様の前に立つんだな」って、なんだか素直に感動しちゃったんですよね。 結局、あれだけの衣装ですけれど、輝いているのは肉体でしょ。 その存在を輝かせるために、あれだけのスタッフがいて、 金比羅座なんて、盆を回すのに人間が回わしているわけじゃないですか。 んもう、すごいなーって。バックヤードのすごさというか、 こう、抱きしめて出てくるみたいなのが観えた時に 「いいなあ」って思っちゃって、 もうラグビ―どころではないなって思っちゃったんですよね。 で、もう、そう思ってから裏方一本ですね。

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