行列のできる演出家 岩田達宗さんにお聞きしました。

今年の9月、春秋座で、日本を代表する豪華ソリスト達とオーケストラを迎え プッチーニ作曲『ラ・ボエーム』を上演します。 演出するのは今、人気沸騰中の岩田達宗さん。 サービス精神にあふれ、周りにいる人を明るく楽しい気持ちにさせてくれる、 そんな魅力的な方です。 岩田さんに、演出にかける思いなどを プロデューサーの橘と制作の大嶋が伺いました。

第6回 オペラの演出家って

岩田
オペラの演出家っていうのは、普通の舞台の演出より手続きが多いんですよ。 手続きじゃないな、ネゴシエート。 お芝居の演出家っていったら、ある意味、帝王になれるでしょ、 独裁者になれるでしょ。でもオペラは違いますからね。 まあようするに、色々な人が沢山関わってくるんですよ。 雑多な要素があって、それぞれが相当なオーソリィテイであったり、 専門家な人たちで、自分達を主張してやるもんだから、 相当なネゴシエートが必要なんです。
 
 
「マッチの明かりだけで舞台をやれ」ってプッチーニが書いているとする。 それは「それだけの明かりで見えるものを照らせ」っていう意味ですよね。 もちろん一般照明の力も借りますけれども。 もし、そこでオーケストラピットの明かりが漏れて、 客席に光源が見えたら一巻の終わりですよね。 さらに演奏者が「楽譜が見えない」って何気なく 楽譜用の照明を上に上げられたら終わりですからね。 つまりヴァイオリニストがそうしないための ネゴシエートをするのが、僕らの仕事。 普通は指揮系統があって、舞台監督なり、 ステージマネージャーがそういうことをやってくれるけれども、 「こうされちゃ困るぜ」っていう指揮系統の突端に 僕がいなくちゃいけないんで、 「何でこれが必要じゃなきゃいけないかというとね」っていうことを 説明して歩くんですよ。 例えばヴァイオリンを弾く人は、本当に自分の楽譜しか見ないわけですよ。 僕らが持っているような全体のスコアは見ないんですね。 で、ヴァイオリンは単旋律だから、自分の弾く所だけ見て、 後、何小節かは休みっていうのしか見ないから。 休みの間も気合いを入れてもらえるかっていうのは、 僕らの仕事なんですよ。 舞台美術もそうですよね。お芝居やミュージカルなど マイクを使うものでしたら自由に作れると思うんですよ。 でも僕らの制約はまず反響板が必要なんです。 その反響の置き方を間違えると、歌い手が右にいるのに 声が左から聞こえちゃうこともあるんです。 置き方を間違えると違う方向から聞こえることになっちゃう。 舞台装置のそこまで考えてもらうんです。これが。やっかいでしょ。 衣装デザイナーもそうですよね。 和服の場合なんて、帯の締め方のせめぎ合いですよ。 横隔膜で音程を取って歌うので、帯を締め付け過ぎたら、 歌えなくなっちゃうんですよね。根本的にダメになっちゃう。 だから鎧を着るというんだけれども、 歌い手によって締めて好い場所とか、ヒールの高さとかあるんですよ。 彼らはスポーツマンですから、自分が歌うために、 『ボエーム』用の声っていうのを2カ月間ぐらいキープしていて その体でいなくちゃいけないんですよ。 その声の時には残念ながらモーツアルトは歌えないんです。 もちろん鼻歌程度にサロンパーティで歌うぐらいはあっても、 オペラハウスでは無理なんです。 その体を維持しているもんだから、衣装も理解して作ってあげないと 人によってはどこを締めてあげるとか。 お客様にはハイウエストに見えているけれども 実は、下の方で締めたりとかね。 そういう交渉の一番、格好良く言うとトップにいるわけで、 それをいちいち交渉していくわけだから、 どれだけ人と話すかっていうことが商売なんですよ。 「俺はこうやりたいから、こうだー」って言うわけにはいかないのです。 いちいちいちいち、それをデザイナーにスタッフに、 歌い手に交渉していく仕事ですよね。
それに指揮者もいますしね。
岩田
そうそうそう、そうなんです。
脚本があると思えば、作曲家もいるし、 ましてや私なんか教えられた感じがするのは、 最終的にはオペラの場合は作曲家ですよね
岩田
そうそう、そうなんです。 作曲家が何を表現しようとしたか。それが第一なんですよね。

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